兵庫県丹波市山南町の酒井義己さん(79)の水彩画「風」が、「第25回兵庫ふれあい美術展」の洋画部門で準グランプリにあたる「県美術家同盟賞」を受賞した。これまでの人生で、たびたび見舞われてきた逆境を「向かい風」と表現。強い風に立ち向かい、もがいた日々の思いを絵筆に込めた。酒井さんは、「これまでに様々な向かい風があったが、このような賞までいただけた。ようやく自分の居場所ができたような気分。これからも楽しみながら絵のある人生を生きていきたい」と笑顔を見せている。
受賞作「風」は50号の大作。2カ月間かけて制作した。傘が変形するほどの暴風雨の中を前かがみになって歩く人々を描いている。いつかの新聞で見た、台風上陸の様子を写した写真の記憶がモチーフになっている。
物心がついたころから絵を描くのが好きだった。中学校を卒業後、屋根職人だった父親のもとで働き、20歳代半ばで鉄道マンに転職。保線業務に従事しながら絵を描いていたが、あわただしい毎日に思うように筆は握れなかったという。
「体力があるうちに、思う存分、絵を描きたい」と54歳で早期退職。リュックサックに画材を入れ、野宿や車中泊、ヒッチハイクなどを繰り返しながら全国各地を訪ね歩くスケッチ旅行を始めた。短くて5日間、長い時には2週間も家を留守にする。モチーフは古い建物や古い町なみ。「建物というのは、そこで暮らした人々の哀歓が詰まった歴史の入れ物。そんな物語を絵から伝えることができたら」と話す。
ようやく絵に没頭できると、奮起していた頃、周囲から「仕事を辞めて絵を描いて遊んどる」などと心無い声を何度となく聞かされ、悶々とした日々を過ごした。60歳の頃には網膜剥離と眼底出血を患い、手術をしたものの日増しに視力低下が進み、現在、左目は光を感じる程度という。「絵描きにとって立体視できないことは大変なこと。画用紙と筆との距離感さえつかめない」と苦笑いする。
これらの逆境を時々振り返っては、向かい風に立ち向かってきた自分を作品に重ね、「風」と名付けた絵を描いてきた。「描き終わると、ふうと心が落ち着く」という。
これまでに訪ねたまちは300カ所を超え、仕上げた作品は2000点以上。腕試しにと精力的に公募展にも出品し、退職後からの受賞だけでも45タイトルある。今年5月には画集も発行するなど、精力的に活動している。
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December 23, 2019 at 09:44AM
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視力低下の79歳画家 逆境を「向かい風」に描く 県美術展で準グランプリ - 丹波新聞
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