巨大地震によって沈みゆく日本列島を舞台に、小松左京が1970年代に書いたベストセラーSF小説『日本沈没』を原作にしたアニメシリーズ『日本沈没2020』が、7月9日からNetflixで全世界同時独占配信されている。これまで映画、ドラマ、マンガと様々なメディアで映像化されてきたが、今作は時代を現代に移し、ある家族の視点から物語を描く。湯浅政明監督とチェ・ウニョンプロデューサーの話を基に、作品の全貌を探った。
2020年、日本全土を突然襲った巨大地震は、人々を混乱と恐怖へと導いていった。東京で暮らす中学3年生の武藤歩は、部活動中に地震に遭う。なんとか家族と合流できたものの、東京の被害は壊滅的で、父親の航一郎、母親のマリ、弟の剛とともに首都脱出を図ることに。
終わることのない地震と、日本の国土が次々と海に沈んでいく極限状態のなかで突きつけられる生と死、出会いと別れ、そして現実。彼らの行く先には一体何が待っているのか。
湯浅監督の最新作『日本沈没2020』は、日本を襲った未曽有の天変地異を描いた小松左京の小説が原作。これまでの映画やドラマでは地震に詳しい学者や災害に対応する政府側の人を中心に描いてきたが、本作は現代に生きるごく普通の人々に焦点を当て、1組の家族を通してリアルな現実を浮き彫りにしていく。
プロデューサーのウニョン氏いわく、「制作が始まったのは18年。ちょうど『きみと、波にのれたら』を作っていた頃」だったそうだが、今回のアニメ化を湯浅監督は当初どう感じていたのか。
「小松左京さんがSF界の巨匠という意識は、僕らの世代には確固としたものがありましたが、自分に接点のある作品だとは思っていなかったんです。ただ、それが逆に面白いなと思いました。こうすればいいのかなってすぐに想像できてしまうものより、どうすればいいんだろうって考えられる企画のほうが楽しいな、とも感じました」(湯浅監督)
「アニメでやるならリアルにやるしかないだろうとは思っていた」と湯浅監督。武藤家を中心にオリジナルストーリーが展開されるが、脚本作りは大変だったようだ。
「スペクタクルをアニメーションで描くのは難しいんです。全10話のシリーズもので考えたとき、普通の家族に寄り添う形で、震災が起きた世界で人々が心配したり焦ったり葛藤する姿を描くなら面白くできるかなと思いました。
僕自身、災害で1番記憶にあるのは東北の大震災のときのこと。東京もすごく揺れて不安になったとか情報がなかなか伝わってこないとか、自分の記憶が中心になっています。でも災害って突然やってくるもので、ドラマチックに起こるものでも、すごくタフなアクションとして動くものでもない。予想もしていなかったものにそれでも対応していかなきゃいけないという形が自然なのかなと思って、そういう描き方をしています。
あと、子ども2人が主人公ではありますが、誰がどうなるか分からない感じで進むといいなと。監督としてもエンタテインメントとしても、そういう“安心感のない作り”になるといいなと思っていました」(湯浅監督)
今起こる物語を描く
脚本は舞台やドラマ、アニメまで幅広く活躍する吉高寿男。脚本会議には自衛隊や子どもの状況に詳しいスタッフも集められ、意見を交わしたという。劇中にはスマートフォンの緊急地震速報、ツイッター、YouTube、eスポーツといった現実世界の身近なアイテムも登場し、物語のリアルさを後押し。緻密に作り上げられた濃密なドラマが展開されている。
そして、湯浅監督といえば大胆なパースを使った独特の演出や映像が特徴的だが、今作ではまた新たな一面をのぞかせる。
「この作品が求めているのは、やっぱり淡々とした日常描写とか、言い方がちょっと分からないけど普通の映像というか、生々しさだと思うんですね。そう考えていくと、これまであまりやってきていないリアルでノーマルな感じを狙って、表現もできるだけ自然になるように作っています。ヒーローでない人がヒーローになっている感じというのかな」(湯浅監督)
キャラクターデザインについても同じことが言えるという。
「美男美女ではない、ごく普通の人たちを意識しています。お母さんもそんなに美人でスタイルがいいわけでもない、でもしっかりしたキャリアウーマン。主人公の歩もそんなにいい子でもなかったりするんですけど、キャラクターたちが成長していくところを描いていければいいなと」(湯浅監督)
ウニョン氏は、「こんな時期だからこそ、平和に暮らせる日常がいかに大事かを感じてもらえれば」と語る。「大切な人とのつらい別れなどハード部分もありますが、歩や春生は旅を経て変化していく。そんなドラマを見てほしい」。
「現代、今起こる物語として作品を作っていますが、シミュレーションというよりは、そういう大変な状況に立ったとき自分がどういられるといいのかを考えてほしい。パニックにならずに冷静で、自分にとって何が大切か意識して行動できるといいなと思っていますし、見る人もそこに注目してもらえればと思います」(湯浅監督)
(ライター 山内涼子、日経エンタテインメント! 平島綾子)
[日経エンタテインメント! 2020年8月号の記事を再構成]
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『日本沈没2020』 家族の視点から描くリアルな現実|エンタメ!|NIKKEI - 日本経済新聞
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