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クリント・イーストウッドが描く「英雄」の共通点 - マイナビニュース

クリント・イーストウッドが描く「英雄」の共通点

クリント・イーストウッド監督の第40作目『リチャード・ジュエル』が1月17日より全国公開を迎える。1996年のアトランタオリンピックで起こった爆破テロを題材にした本作は、容疑者とされた爆弾の第一発見者リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)と、真実を求める弁護士の闘いを描く実話サスペンス。今回Rolling Stone Japanでは、イーストウッド監督の独占インタビューをお届けする。

『アメリカン・スナイパー』や『ハドソン川の奇跡』といった、実在人物をめぐる”真実”を描き続けてきた監督。事件のことはよく覚えていないと語り始めた監督は、「爆弾を見つけた警備員が最初は英雄扱いされたが、その後容疑者にされたと聞いて思い出した。でも細かい話がどうだったかは定かではない。忘れてしまっていたんだ」と告白する。

「記事と脚本を読んだとき、現代にも通じる興味深い題材だと感じた。当時も今も、人々は自分の行動がもたらす結果をあまり考えずに、早まった判断をしがちだからね」と指摘。FBIやメディア、そしてアメリカの世論はどう動いたのか。リチャード・ジュエルと弁護士のワトソンが目の当たりにした現実、それは「今、我々の周りで起きていることとすごく似ている」と感じたという。「この映画に関わり始めたのは4年ほど前のことだ。マリー・ブレナーが書いた『ヴァニティ・フェア』誌の記事を読んだことがあり、脚本も気に入っていた。ただ当時はほかのスタジオに権利があり、私にも他のプロジェクトがあった」と、一度はお蔵入りに。

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映画『リチャード・ジュエル』より(©2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC)

しかし、フェイクニュースやSNSをめぐるドラブルなど、現代社会に通ずる題材が改めて気になった。「突然この題材がどうなったか確かめてみたんだ。そこからこの題材を復活させたんだ。今の時代にも通じる物語だと感じた。ごくふつうの男性が最悪に損な役割を押し付けられる。その裏には世界規模のイベントが中止になるのではないかという人々の懸念があった。だから弱い立場のこの男性に的を絞って、集中攻撃したんだ」と、今この時代に問いかけるべきテーマが描かれていた。

イーストウッド監督が語る主人公、リチャード・ジュエル

「彼の夢は法執行者になることで、警察官になりたいと強く思っていた。だから警備員として働いている。その仕事は彼の夢ではないが、少なくとも法執行に関われる仕事だ」と、幼い頃から警官に憧れていた。そして、運命の日が訪れる。「その時、彼は鋭い勘を働かせ、爆弾を発見するほど賢い警備員だった。彼が見つけた荷物を気にかける人は他に誰もいなかったし、危ないものだと思う人もいなかった」と、リチャード以外は不審物を気にとめず、「誰もが彼こそが狂人だと思っていた」という。爆発が起こり、100人を超える被害者が出たが、リチャードの賢明な努力によって、数多くの人々が救われた。「だからごくふつうの人間が英雄に祭り上げられた」のだ。


映画『リチャード・ジュエル』より(©2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC)

ところが、容疑者として実名されたことで状況は一転、メディアによって「世間全体とリチャードが対立する構図ができあがってしまった」と指摘する。FBIは、事件の捜査は着実に進んでいることを国民に示す必要があった。記者は、他紙に出し抜かれる前に最新の情報を伝える義務感に駆られていた。そんな時、リチャード・ジュエルを第一容疑者として捜査中との情報がリークされ、実名報道されてしまう。

「とても損な役回りだった。本当の悲劇だ」と語る監督は、この作品は「政治的な話だとは思っていない。それよりも人間を描く物語だ。弱い立場の男性が世間に立ち向かっていく話だ。まるでダビデ対ゴリアテだね」と、旧約聖書に描かれた無謀なる戦いを引用する。敵うはずのない巨大な敵ゴリアテに向かった羊飼いの青年ダビデの姿が、リチャード自身に重なっていくのだ。

実母も驚愕したそっくり度!主役を演じたポール・ウォルター・ハウザーについて

実話を基にした社会派の傑作『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』を観ていたイーストウッドは、「リチャード役にはポール・ウォルター・ハウザー以外考えていなかった。彼にとっては、映画で主役を務める大きなチャンスだった」と振り返る。スパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』でも実在の過激派青年を演じたハウザーは、真摯にこの役にアプローチした。

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映画『リチャード・ジュエル』より(©2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC)

「彼はとても真剣に取り組んでくれ、すばらしい演技を見せてくれた。彼はリチャード・ジュエルについてあらゆることを学んでくれた。ニュース映像で彼の喋り方を聞き込み、リチャードの特徴を完璧に捉えていった。監督としての仕事は撮影前にほぼ終わらせた。彼にすべての素材や情報を提供し、弁護士のワトソン・ブライアントとリチャードの母ボビにも紹介して、一緒に時間を過ごしてもらった。そして本物のリチャードが出演するトークショーなど、さまざまな番組の映像を見てもらった。話し方のアクセントは完璧にマスターしてくれた。ジュエル本人と比べて見たときに驚くほどだ。どちらが本物なのかわからないほどの出来だった」。

無謀な弁護士ワトソンをサム・ロックウェルが好演

「私は俳優としてのサムが好きなんだ。才能にあふれている彼ならワトソン・ブライアントを表現できると思った」とキャスティングを進めた。「どんなキャラクターであれ、それを包み込むように理解し、彼自身のものにできる。実際に完璧にこなしていた」という。いっぽうサム・ロックウェルは「俳優に対してものすごく思いやりのある監督で、俳優たちを信頼し、自由に演じさせてくれる。それに彼は、不正について、そしてふだんは過少評価されているけれど、いざというときに力を発揮する、リチャード・ジュエルのような人物についてのストーリーを描くことに関心をもっている。僕は監督のそういうところが素晴らしいと思う」と絶賛。


映画『リチャード・ジュエル』より(©2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC)

リチャードとワトソンを追い詰めるきっかけを作る女性記者キャシー・スクラッグスを演じるのは、オリビア・ワイルド。「脚本を読んでもらったときに、この役を通してさまざまなことが描けると思った」と監督は言う。「彼女は興味深い人物だ。とてもタフで、常に自分に優勢になるように取材を進める」と、スクープを狙って取材対象に向かう貪欲な女性記者を通して、メディアが抱える問題点に切り込んでいる。

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映画『リチャード・ジュエル』より(©2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC)

もう一人の名女優が出演している。FBIによる執拗な捜査、そしてメディアによる報道の過熱、目の前で追い込まれていく息子を見守る母、ボビ・ジュエルを演じるキャシー・ベイツだ。監督は「キャシーはすばらしい。大きな集中力をもって、真剣に取り組んでくれた。ほかの俳優もそうだが、彼女も本物のボビ・ジュエルを表現するために脚本や提供した素材以上に役柄について調べてきてくれた」と、その役作りと演技を絶賛した。

クリント・イーストウッドが伝えようとしたこと

イーストウッド監督は、『アメリカン・スナイパー』で史上最強の狙撃者といわれた男の葛藤する内面を描いた。『ハドソン川の奇跡』では、155人もの命を救いながらも容疑者とされたパイロットが直面した真実に向き合った。全くタイプの異なる実在人物を描いてきたことについて、「そうだね、みんな違う。異なるからこそ現実の英雄なのだと思う。それぞれが違う人間が人生のなかで異なる困難に直面する。それでも彼らは苦境に立ち向かっていく。それが英雄の共通点なんだ」と指摘する。

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映画『リチャード・ジュエル』より(©2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC)

この映画を通して観客に受け取ってもらいたいことは何かと問うと、「悲劇とはなにか、そして物事が正常でなくなること、そしてそれによって多くの人間が苦しむことがあるということを感じてほしい。人は常に非難を避けるために証拠隠滅をするものだが、それは正しいことではないんだ」と警鐘を鳴らす。最後に、なぜ今、リチャードの物語を映画化することになったのかと聞くと、こんな答えが帰ってきた。

「彼は44歳という若さで亡くなっている。母のボビとワトソンはこの映画を作っていることを良いことだと思ってくれていた。彼はずいぶん前(2007年)に亡くなってしまったけれど、この映画はリチャードに対するトリビュートなんだ」。

<映画情報>

『リチャード・ジュエル』
2020年1月17日(金)全国ロードショー
監督/製作:クリント・イーストウッド
原作:マリー・ブレナー バニティ・フェア「American Nightmare―The Ballad of Richard Jewell」 
脚本:ビリー・レイ『キャプテン・フィリップス』
製作:ティム・ムーア、ジェシカ・マイヤー、ケビン・ミッシャー、レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・デイビソン、ジョナ・ヒル
出演:サム・ロックウェル(『スリービルボード』)、キャシー・ベイツ(『ミザリー』)、ポール・ウォルター・ハウザー(『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』 )、
オリビア・ワイルド(『トロン:レガシー』)、ジョン・ハム(ドラマ『MAD MEN マッドメン』)
©2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
http://wwws.warnerbros.co.jp/richard-jewelljp/

本記事は「Rolling Stone Japan」から提供を受けております。著作権は提供各社に帰属します。

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January 10, 2020 at 07:00PM
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