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芥川賞作家が語る「人が生きた証を描くということ」(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

島での暮らしを描いた、芥川賞受賞作

 ――著書の『背高泡立草』の舞台となったのは、長崎県の沖にある小さな島。島にある打ち捨てられた納屋の草刈りをするために一族、三世代が集合します。たった一日の出来事が島と人に蓄積した歴史や記憶を呼び起こしていく、温かい物語です。

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 僕の母が生まれ育った島をモデルに話を書くのは、3作目(『縫わんばならん』、『四時過ぎの船』、本作)となります。島には僕も物心つく前からよく行っていました。今も祖母が暮らしています。

 漁業が主産業の小さな島ですが、こうした場所は日本各地にあると思います。過疎化で小学校も廃校になってしまう、いまだに「青年団」はあっても構成団員が50代以上ばかりというような、そんなところ。僕個人には懐かしい場所なんです。

 今回は、とにかく草をいっぱい書きたかったんですね(笑)。セイタカアワダチソウのような生命力あふれる草、そんな草に埋もれていくような物語を書きたかった。人の手が入らない草原や納屋も、今や日本各地にあります。

 かつては漁師さんが網を出し入れする光景は島の日常でした。定住する人がいなくなると、人間の痕跡は埋もれていってしまう。人の歴史、人が生きていた証しが草の中に埋もれていく光景には、創作を刺激する何かがありました。

目に浮かぶ家族の情景

 ――作品では主人公の奈美、母、伯父、伯母と従姉妹の知香、それにおばあちゃん。三世代6人の会話が島言葉まじりで弾んでいくのが、心地よい展開になっています。

 実は僕は、島言葉をうまく話せるわけではないんです。作品中の奈美や知香のような感じです。もっぱら島言葉は聞くだけで育ちました。

 島言葉のような方言は祖母の世代、母の世代、孫世代と微妙に変化してもいます。ここでは広くは九州弁を使っていますが、標準語の混じり具合を世代で変えています。

 母の実家の横にある道が、面白いんです。20年ほど前にアスファルトで舗装されたんですが、その前はコンクリートの石混じりでした。もっと前は平たい石を敷いた石畳。その堆積層が少しずつ見える地面があるんですね。言葉もこんな風に時代時代を反映しているのだな、と眺めたことがありました。

 ――奈美は、使われない納屋の草刈りなど「ほっといたらよかろうもん」と何度も言い、そのたびに母は「良いやないね」といなします。誰しも経験がありそうな会話です。

 親の世代は事情や理由がからんで、何かと割り切れない。世間体があるとか、自分が生まれ育った場所だから放置できないとか、合理的ではないんです。また、娘を理詰めで納得させたいわけでもないでしょう。「家族なんだからたまには手伝って」の感じです。

 家族の会話は、第三者からしたらどうでもいいことばかりです。9割方は「あれ取って」「風呂入った」とか、「いいよ」「うん」と返事だけとか、他愛のない話の連続。一見無意味と思えるようなことの繰り返しが、家族という小さな共同体の正体かもしれないです。

 そんな会話ですが、書くのは楽しかったですね。特に最初の車中のシーンで出てくるおばちゃんたちの会話。うんざりするくらいによくしゃべる。自分で読み返しながらも、あぁうるさい、と思いました(笑)。ああいうやり取りは強いパワーを持っているものです。

 ――この作品は、主のストーリーからやや離れた挿入話があるのも特徴です。戦前の満州移民、戦後すぐの朝鮮への引き揚げ船、江戸時代の鯨漁師、現代のカヌーの少年と、どれも味わい深いです。

 この作品は当初、連作短編として構想しました。片足が島にあるとしても、もう片足を遠くに伸ばしたいと考えたんです。連作短編のように書けば、島と、そこを通り過ぎていった人々を描くことができるだろうと思ったんです。

 この構成がうまくいったのかどうか、僕自身はよくわからないのですけれど、遠い昔の家族や最近の少年の話が混じっても破綻や逸脱がなく、一編の物語に仕上げられたのはよかったです。全体にひとつの雰囲気が漂っていて、それが心地よく読めるのだとしたら、僕としてもうれしいです。

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March 15, 2020 at 11:01AM
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