【昇格1年目の試練】
今季、なでしこリーグ2部で戦う大和シルフィードは、川澄奈穂美、上尾野辺めぐみや、杉田亜未、筏井りさといった、なでしこジャパンやなでしこリーグで活躍する選手たちを輩出してきた。
拠点は神奈川県大和市。本拠地の大和市営大和スポーツセンター競技場は2016年に「大和なでしこスタジアム」という愛称を名づけ、シルフィードは「女子サッカーのまち」を目指す大和市を象徴する存在となった。市では女子サッカーを通じて地域の活性化に力を注いでおり、元日本女子代表選手を招いてクリニックや交流戦などのイベントも行っている。
なでしこリーグへの参入を目指して現在のトップチームが設立されたのは2014年。翌15年から3部に当たるチャレンジリーグに参入し、18年に優勝して2部に昇格した。
チームを率いて4年目になる藤巻藍子監督は今季、なでしこリーグ2部では唯一の女性監督となる。シルフィードはヘッドコーチ、GKコーチも全員、元なでしこリーグOGが務める唯一のチームで、GKコーチを務めるのは元日本女子代表の小野寺志保コーチだ。
2部で1年目の挑戦となった昨年は、開幕戦こそ幸先よく勝利したものの、2節から10試合勝ちなしと苦しんだ。後半戦は持ち直し、最終的には得失点差で降格圏を免れ、残留を決めている。2部に上がって厳しい戦いになることはある程度予想していたが、攻撃の時間をほとんど持たせてもらえない試合もあったという。
「チャレンジリーグの時と同じように積極的にボールを奪いに行こうとしたのですが、(2部では)行っても奪えない状況が出てきて、体力だけ消耗してしまったり、自分たちのペースも作れずに大量失点したこともあります。それでも戦い方を変えることはしたくなかったので、引いて守ろうとはしませんでした。『奪いにいけない時もあるよね』と。相手にとってはシュートを打ってくるチームがいちばん怖いと思うので、後期は積極的に枠を狙って、こぼれたボールも取りに行ってゴールを狙うことを心がけました。自分たちができることで勝負していくことで、ある程度踏ん張ることができたと思います。今年は攻撃の時間を少しでも多くしたいですね」
今季は、昨年よりも攻撃の時間を増やすことが一つのテーマとなる。頼もしい新戦力も加入した。昨年1部で戦ったAC長野パルセイロ・レディースからFW濱本まりんを獲得。豊富な運動量や得意のドリブルを生かし、中盤から前線で攻撃の時間を増やすキープレーヤーになるかもしれない。
また、U-20女子代表の正GKで、日テレ・東京ヴェルディベレーザから期限付き移籍中だったGK田中桃子が移籍期間を延長。また、ちふれASエルフェン埼玉からの期限付き移籍で昨年シルフィードの最終ラインを支えたDF岸みのりが完全移籍したことも心強い。
「元々、私たちはチャレンジャーなので、新しいことをやり続けるしかないと思っています。まだ課題ばかりですが、理解力が高い選手もいるので、試合の途中でもパッと指摘すれば修正できる場面が増えてきました。一つも負けたくないという気持ちで戦いますが、目標は、(10チーム中)半分以上の5位以内に入ることです」
開幕は7月18日に決まっているが、コンディション調整では難しさを感じているという。
選手はスポンサー企業などでフルタイムで仕事をして、練習は夜に行っている。4月上旬に活動自粛要請が出されてからは「新型コロナウイルスに感染しないこと」を優先して調整を個々に委ねていたが、5月に自粛期間が延長されて以降はトレーニングメニューを渡し、週1回のオンラインミーティングで顔を合わせる形をとった。
「介護の仕事をやっている選手もいればパソコン業務の選手もいて、仕事が忙しくなった選手もいます。逆に、給食を作っていた選手は給食がなくなってしまったので仕事がストップしてしまったり、というように選手によって環境が違ったので、メニューはそれぞれできる範囲でやってほしいと伝えていました。走る場所がコンクリートの上しかない選手やボールを蹴る場所がない選手もいるので、ボールを使ったメニューはなく、筋トレ、ジャンプ系を中心にして、シャトルランなどを個人で入れてもらうこともありましたね。(再開後は)メンタル面はすごく上がってきているのですが、コンディションは2カ月のブランクで体重が増えてしまった選手や、ケガも増えました。逆に良くなってきている選手もいて、その差が開いてしまっている部分はありますね」
今季はリーグ開幕から夏場の試合が続くため、ケガのリスクを考慮しながら試合にピークを合わせていく難しさはつきまとう。その中で、シルフィードが昨年の反省を生かして幸先の良いスタートを切るためには、残り約2週間が勝負となる。
【背番号10不在を埋める存在に】
今季、シルフィードが攻撃の時間を増やし、得点力を向上させるためには、前線からのプレスやフィニッシュの質を向上させることが欠かせない。
FWのレギュラーの一人で、過去3シーズン全試合に出場してきたFW松浦渚は鍵を握る一人だ。シルフィードの下部組織出身で、2トップを組むFW堀良江とともに2部昇格の原動力となった。昨季の2部の試合は、動画サイト「mycujoo」で見られるが、松浦は前線からのアグレッシブな守備や、味方がボールを受ける瞬間に良い動き出しを見せながら、ゴールに結びつく形でフィニッシュに持ち込むシーンは少なかった。シュート数は1試合あたり1.7本とFWとしては物足りなく、悔しさもあっただろう。
「チャレンジリーグに比べて全体的にレベルが高かったので、どうしても守備の時間が多く、思うようにならない時間が長かったです。そういう課題にぶつかったことで、選手間でよく話をしたことは良かったと思っています。今年は、もっと攻撃の時間を長くしたいですし、個人としてもドリブルでもっと仕掛けたり、ゴールを貪欲に狙っていきたいですね」
長い目で見た目標を立てるよりは、目の前の一試合、ワンプレーにすベてを出し切ることを考えているという松浦。試合中、対峙する相手ディフェンダーとの駆け引きでは常に意識していることがある。
「常に相手の逆を取りたいと思っています。自分がボールを持った時の1対1の場面で、相手に『右にくるだろう』と思わせて左をとったり、『シュートを打つだろう』と思わせてラストパスを出したり。走り出すタイミングも含めて、相手の逆を取ることが楽しいんです」
自粛期間中は、そうした駆け引きの要素を磨く練習ができない代わりに、バランスボールやダンベルを使った筋力トレーニングに励んだという。
「いろいろな選手のトレーニング動画を見て真似していました。筋トレはキツくやり過ぎてしまうと練習に影響が出たり、試合で体が重くなったりするので控え目にしていたのですが、(自粛期間中は)土日に試合がないので、負荷をかけて、身体がバキバキになるぐらいに追い込むことができました。練習再開後は、イメージ通りに体が動かないこともあったので、走っていて急激に止まったり、ターンするときや、対人の練習で体をぶつけるタイミングなどで、自分の頭の中と体の動作が一致していることを確認しながらやっています」
藤巻監督は、この期間にコンディションを上げた選手の一人に松浦を挙げた。一方、課題については「上手いのにゴール前で弱気になってしまうところがあるんですよ。もっと自信を持って欲しいです」と、柔らかい口調で指摘した。
昨年、シルフィードは、リーグ戦で12ゴールを決めたが、得点者は10名と分散している。その事実からは、エースの不在が浮き彫りになる。18年からチームで背番号10をつける選手がいないことについて、指揮官は「得点をずば抜けてとっている選手がいないので10番を決めづらいんです」と明かした。
松浦がつけている「9」は、ストライカーを象徴する番号だ。今季の目標として、松浦は「1試合1点取るぐらい貪欲にゴールを狙うこと」を掲げている。それに近い数字を達成できれば、「10」の不在を補ってあまりある存在感を示せるはずだ。
シルフィードは7月18日の開幕戦で、アウェーの神奈川県立保土ケ谷公園サッカー場で日体大FIELDS横浜と対戦する。1部で2シーズンを戦った強敵との神奈川ダービーは面白くなりそうだ。
(※)インタビューは、6月下旬にオンライン会議ツール「Zoom」で行いました。
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July 02, 2020 at 08:00AM
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