[ドバイ 5日 ロイター] - この夏、欧州を襲った猛烈な熱波により、スペイン南部の都市セビリアでは気温が摂氏40度を超えた。このとき、市内でのエアコン稼働時間は、2022年の同時期と比較して23%の急増を示した。
省エネルギーのためにエアコンを遠隔制御するスマートデバイスを専門とする企業、センシボによるデータ解析では、ポルトガルのリスボンでも、6月中旬から7月中旬にかけてのエアコン平均稼働時間が、前年同時期と比べて約41%増加した。
冷房技術は酷暑の中で生命を守ることにつながるが、一方で、気候危機を深刻化させる要因でもある。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、冷房や冷媒のために用いられるエネルギーは、世界の温室効果ガス排出量の7%を占め、需要は2050年までに3倍以上になる可能性があるという。
国連環境計画(UNEP)の「クール・コアリション(冷却同盟)」を率いるリリー・リアヒ氏は、「私たちは大きな問題を抱えている」と語る。「しっかりした政策努力なしには、排出量が急増してしまう」
今年の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)でも各国の政府・企業がこの問題に取り組み、エネルギー効率の改善や温室効果ガス排出量の大きい冷媒の規制について討議が行われている。
2050年までに冷房関連の温室効果ガス排出量を2022年の水準から少なくとも68%削減するというCOP28の誓約について、数十カ国が支持を表明している。
だがエアコン業界の専門家は、持続可能な空調技術を商品化し大規模に普及させていくためには、各国政府が企業にインセンティブを提供する必要がある、と指摘する。
現時点で最も効率の高い機器をもっと入手しやすい価格にするだけでも効果はある、とリアヒ氏は述べた。「非常に効率の良い機器がすでに存在するのに、活用されていない」とし、「政策によって需要を創出する必要がある」と語った。
<「クール」な設計>
エアコンメーカーは多年にわたり製品の改良に向けた開発を続けており、機器の電力消費量は減少し、強力な温室効果ガスであるハイドロフルオロカーボン(HFC)の排出も以前より少なくなっている。
従来型のエアコンがエネルギーを大量に使用するのは、除湿のプロセスだ。
従来型のエアコンは、気体の冷媒を液化し、再び気化する過程で熱を外部に排出し、それによって冷房効果を生んでいる。
除湿のためには、空気を冷やして水蒸気を凝結させ、水として排出できるようにする必要がある。まず空気を冷やさないと除湿できないという点が、従来型のエアコンの効率を低くしている原因だ。
「温度もさることながら、快適さの鍵は湿度にある」と語るのは、米国のスタートアップ、トランザエラのソリン・グラマ最高経営責任者(CEO)だ。「現在のエアコンは、除湿に関しては最悪だ」
グラマ氏が共同創業者としてトランザエラを設立したのは2018年。土台には、マサチューセッツ工科大学(MIT)で発見された、革新的な冷媒素材がある。
トランザエラが試作したエアコンでは、こうした素材を使って空気の除湿を行い、従来型のエアコンに比べて温室効果ガスの排出を減らすことを目指している。
エアコン大手2社、珠海格力電器(グリー・エレクトリック)とダイキン工業(6367.T)は、より優れたエアコンの製造を目指してインド政府と非営利団体が支援した2021年のコンペで勝者となった。
米トランザエラと同様、優勝したプロトタイプが重視したのは、除湿機能と、現在入手可能なエアコンに比べて気候への影響を5分の1に抑制することだった。
だが、コンペから2年を経た今、優勝したプロトタイプを商品化する計画は存在しない。グリーがプロトタイプより妥協した機種をまもなく発売したいとする一方、ダイキンは原材料のコストとサプライチェーンの課題が障壁として残っていると説明した。
<期待できる市場規模>
エアコン業界の専門家は、小売価格を下げるには政策とインセンティブが必要だと言う。非営利団体(NPO)「サステナブル・エナジー・フォー・オール(万民のための持続可能なエネルギー)」によれば、温・熱帯地域の住民10億人以上が、いまだに冷房なしで生活しているという。
「冷房はぜいたくではなく権利に近い」と、気候関連のシンクタンク「E3G」のラリッサ・グロス氏は言う。
UNEPのリアヒ氏は、各国政府は需要喚起とコスト抑制のために、これまでより厳しいエネルギー効率基準の導入、エネルギー効率表示の明確化、補助金や一括調達を検討する余地があると語る。
一方で、効率の悪い中古機種が発展途上国に転売されることを防ぐには、輸入関税が有効だろう。
グリーは、非常に効率的なプロトタイプに基づく実用機種をまだ発売していない。プロトタイプ開発で同社に協力した清華大学(北京)の熱工学者の王宝龍氏の話では、市場調査からは、最大で従来製品の1.5倍という高価格は消費者から敬遠されることがうかがえるという。
王氏は「インドネシアなど一部の国では経済発展がそれほど進んでいないが、こうした冷房機器が必要になっている」と語る。「手の届く価格の冷房に注力しなければならない」
グリーが高効率エアコンの代わりに発売を予定しているのは、類似機種ではあるが、中東地域の乾燥気候に向けた製品だ。このモデルは、プロトタイプで採用した高効率コンプレッサーを使っているが、プロトタイプと同じ冷媒「R152a」ではなく、温室効果ガス排出量は多くなる可能性はあるが低コストの冷媒に切り替えた、と王氏は説明する。
王氏によれば、グリーは多湿気候のインド市場向けの機種にも取り組んでいるという。
スタートアップとしてはもう1社、英バロカルもエアコン技術の改良に取り組んでいる。同社の初期プロトタイプでは、気候に悪影響を与えるガスではなく、固体の冷媒を採用している。
バロカルの創業者で、ケンブリッジ大学で材料物理学を研究するザビエル・モヤ氏は、「冷却能力も効率も高く、あらゆる基準において良好な性能を発揮する第2世代プロトタイプの開発に鋭意取り組んできた」と語る。
米スタートアップのトランザエラは、2025年までには製品発売にこぎ着けたい考えだ。
「(エアコン)業界の歩みは遅い」とグラマCEOは語る。「サプライチェーンを用意し、パートナーシップを築く必要がある。100年の歴史をもつ業界が針路を変えようとしているが、その制約の中で努力していかなければならない」
(翻訳:エァクレーレン)
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